ブリティッシュビート続き その4 ゼムそして、ヴァンモリソン。(敬意をこめて敬称略)
ブリティッシュビート最後は北アイルランド、ベルファストのゼムです。
きっかけはパティスミスのグロリアでした。
素直に元歌を聴いてみたいという欲求。
1ヶ月の生活費を顧みず再発されていた国内盤新品2枚を同時購入。
「ファースト」と「THEM AGAIN」。
なぜ覚えているかというと帰宅してジャケットをよく見ると
違う顔の人がいることに気づいたのです。5人のうち3人も。
最初からメンバーチェンジ?なんとなく嫌な予感。
新品を2枚同時購入という貧乏学生の大胆な行為が裏目に出る
不安がよぎりました。
ファーストだけにしてもう一枚は聴いたことがなかったサーチャーズに
すればよかったかも。
しかしヴァンモリソンの強烈な歌が微妙な気持ちを全て払拭。
バンドの音よりヴァンモリソンの印象が90パーセントで
ジャケットのメンバーの事など忘れていました。
後々知ったのですがゼムは初期からメンバーチェンジが激しく
2枚ともセッションミュージシャンが参加しています。
この時代一番有名なセッションマン、ジミー・ペイジも参戦。
THEM / THEM
THEM / THEM AGAIN
ファーストA面1曲め「MYSTIC EYES」が好きです。
ジャングルビートに乗るハープ、語るように歌い出すヴァン。
「俺は田舎のベルファストからやって来た、文句あっか、
媚びたりしねぇぜ、誰でも相手になってやる」
歌詞は全く違いますが、
よそ者の気迫、気概のようなものを感じます。
ブルース、R&B、ポップな曲まで
どんな曲もヴァンモリソン色に染めてしまうパワーと説得力。
サーチャーズを買わなくてよかった。
ゼムでデビューしたヴァンモリソン
いまだに現役、今年で75歳。
ありふれた言い方になりますがロック界の生ける伝説。
日本に来たことがない最後の大物。
90年代WOMADJAPANに来るという噂が出ましたがやはりNG。
たぶん日本にはもう来ないでしょう。歳も歳だし。
飛行機嫌いという話もありますから。
ヴァンモリソン のプロフィールを簡単にまとめると
母親がジャズシンガー、父親がブルース、ジャズなどのレコードコレクター。
子供の頃からいろんな音楽に接して育ちます。
アマチュア時代からサックス、ギター、ハーモニカを担当。
音楽雑誌のヴァンモリソン紹介文は概ねこのような感じです。
「まわりの評価など気にせず、我が道を行く孤高の人」
「魂を揺さぶる偉大なアイリッシュソウルシンガー」
裏ヴァンモリソン紹介をまとめると
「気難しい」「気まぐれ」「インタビュー大嫌い」「変人」
「アウトサイダー」「短気」「わがまま」「サービス精神ゼロ」など。
映像も少ないし、日本に紹介される記事も極端に少ないから
本当の姿はわからないというのが正直なところです。
私が好きなイギリスの音楽番組BBCジュールズホランドの「LATER」にも
数回出演しています。
この番組の面白いところは歌の間にあるアーティストインタビュー。
ジュールズホランドの音楽的造詣の深さと気さくな性格で
どのアーティストも普段聞けないような話や姿を見せてくれるのですが
ヴァンモリソンだけないのです。
どんな大物でも多少の宣伝やちょっとだけ過去の栄光話とか
インタビューがあるのですがヴァンモリソンだけ一切なし。
ジュールズホランドの曲紹介も気を使っている感じはしますが
深く突っ込みません。インタビューなしが当たり前のように進行して行きました。
滅多に見られない姿が見られると思っていたのにがっくし。
ブリティッシュビートでヴァンモリソンを知って
そのまま70年代のソロアルバムに突入する気持ちはあったのですが
他にも聴きたいものがあり、気にはなるけど一旦ヴァンモリソン探訪は
休止状態になりました。
再び聴きだしたきっかけは
1988年「アイリッシュハートビート」でした。
VAN MORRISON & THE CHIEFTAINS / IRISH HEARTBEAT
映像業界に入って2年目。
徹夜作業が当たり前の制作進行アシスタント時代。
疲れ果てた時の癒しミュージックとして
アイリッシュハートビートが妙にハマったのです。
行ったこともないアイルランドの風景が心を穏やかにしてくれる。
久しぶりに出会ったヴァンモリソンの声が
嫌なこと全てを浄化してくれました。
今聴いても素晴らしいアルバム。
特にトラディショナルソングのA面3曲め&4曲め。
チーフタンズ、ケヴィンコネフ(ジャケット写真左端サングラスのおじさん)
と交互に歌う「TA MO CHLEAMHNAS DEANTA」。
ヴァンがドラムを叩きながら歌う映像で有名な「RAGLAN ROAD」。
アイリッシュハートビートを聞くと先輩から
怒られているシズル感がジンワリよみがえってきます。
不条理で納得いかない怒られ方もしましたが
人生にはそういう事も大事な経験だと思います。
ここからコツコツとヴァンモリソン中古盤探しが始まりました。
ただ古い順にうまく見つかるわけではないしネットでディスコグラフィーを
簡単に見られるわけでもない。アルバムの関連性もわからない。
ヴァンモリソンという人の全体像をつかむまで随分時間がかかりました。
まだ掴めてないかもしれません。
とにかく情報量が少ない。しかもアルバムレビューなど人それぞれ評価が違う。
ついでに言うと歌詞も分かりにくい。
しかし聴きだすとどんどん深みにハマっていく。
好きなアルバムをいくつか。
VAN MORRISON / ASTRAL WEEKS 1968
ゼム解散後、単身アメリカへ行きます。
ゼム時代唯一信頼していたアメリカ人プロデューサー、
バートバーンズのバングレコードにお世話になり
レコーディングするが納得出来るカタチにならず水の泡に。
バートバーンズも急死。その後ワーナーに移籍。
バングレコード時代のレコードは本人納得していませんが出ています。
「BROWN EYED GIRL」など良い感じの曲もあります。
ワーナー移籍第1弾、本人的ファーストソロ「アストラルウィークス」を聞くと
バングレコードセッションが自分のやりたかった事と
違うことがはっきり分かります。
質感がまるっきり違うのです。
参加セッションミュージシャンもジャズ系。
既成のロックをやりたくなかったのでしょう。
よく言えば
アコギを中心にした生楽器の流れるような浮遊感がある音に
ジャズ的な演奏及び即興スキャットゴスペル風歌を重ねる。
ヴァン独特のソウルシャウトも更に抑揚をつけて
なおかつ難解な歌詞でつかみどころをあえてハッキリさせないような
抽象的な音空間。
言葉で説明するのは難しいアルバムです。
しかしピュアな気持ちはストレートに伝わってきます。
23歳の仕事とは思えない。
悪く言うと
同じようなテンポ、テイストの曲が多いので眠くなります。
最初このアルバムは好きではなかったのですが
何回も聞いているうちに中毒になり好きになってしまったような感覚です。
ヴァンの中でも特別扱いの「変」なレコードだと思います。
美しいサイケドラッグミュージック。
ジャケットデザインは嫌いです。
VAN MORRISON / MOONDANCE 1970
アストラルウィークの反動か、とてもわかりやすく聴きやすい。
曲もいい。歌もいい。文句なし!初期の最高作だと思います。
一番好きな歌は歌詞も含め「CARAVAN」
ジャケットも好き。
VAN MORRISON / HIS BAND AND THE STREET CHOIR 1970
MOONDANCEと同じ年に出た「ストリートクワイア」
ムーンダンス以上にリラックス。バンドとの意気もバッチシ。
ホーンアレンジも効果的で歌も大きなノリになっている。
オープニングの「DOMINO」が
このアルバムのハッピームードを象徴していると思います
「CALL ME UP IN DREAMLAND」も楽しい。
アコギで構成される「VIRGO CLOWN」も地味だけど好きです。
次作のテュペロハニーかストリートクワイアどちらか1つにしようと
思って悩みました。
ジャケットデザインは嫌いです。他のアイデアなかったのか。残念。
VAN MORRISON / SAINT DOMINIC’S PREVIEW 1972
東海岸からサンフランシスコへ移住して2作目。
テッドテンプルマンプロデュース。
DEXY’S MIDNIGHT RUNNERSがカヴァーした
「JACKIE WILSON SAID」軽快なノリでスタート。
2曲めの「GYPSY」もタイトで力強い。
アストラルウィーク調の「LISTEN TO THE LION」も魅力的。
B面2曲め「REDWOOD TREE」は自信たっぷりな歌いっぷり。
そしてラスト「ALMOST INDEPENDENCE DAY」
イントロのハミングと12弦ギターのユニゾンがおしゃれ。
内容がいいだけにジャケットが残念。
ヴィジュアルにこだわりがないのか、興味ないのか。
VAN MORRISON / HARD NOSE THE HIGHWAY 1973
タイトルの意味がよくわかりません。
日本タイトルの「苦闘のハイウェイ」ってのもよくわからない。
ジャケットがそれ以上によくわからない。
ヴァンモリソンのヴィジュアル感覚にはついていけません。
このイラストが良い悪いではなく
なぜ突然イラストジャケットなのか?
まあいいですけど。
時間をかけて本人的にも大充実作。
しかしヴァン作品の中では人気なし。
ジャケットのせいでしょう。
唐突なA面1曲め「SNOW IN SAN ANSELMO」
無国籍?交響楽室内合唱団のコーラスからジャズ4ビートに変調。
その上にまた無理やり乗っかるようにコーラス隊が加わる。
異種格闘技戦のような面白さ。病みつきになる不思議な曲です。
そして美しい2曲め「WARM LOVE」以降は
しっとり優しめの曲が多い。
人気はないが私は好きです。
VAN MORRISON / IT’S TOO LATE TO STOP NOW 1974
バックバンド、カレドニアソウルオーケストラとの集大成。
2枚組ライヴ。ブルースカヴァーからゼム曲まで歌いまくり。
テンション高い。ラスト曲「CYPRESS AVENUE」の最後にヴァンがシャウトする
言葉がタイトルです。
ライヴつながりで他の話ですが
THE BANDのラストワルツ終盤にヴァンが登場します。
歌は「CARAVAN」渾身のパフォーマンス。
最後には短い足を上げてダンス?そのままステージから降りて行きます。
ロビーロバートソンが呆然として「VAN THE MAN」と称えます。
見事な歌です。
VAN MORRISON / VEEDON FLEECE 1974
離婚。そして故郷ベルファストへの旅。空気感はアストラルウィークに
多少近いですがヴィードンフリースの方がやわらかく感じます。
オープニング「FAIR PLAY」のスローモーションで時が過ぎていく感じが
このアルバムを象徴しているような気がする。
ジャケット写真の顔の表情、色合い、デザイン、タイポ、
全ておさまりがいい。一番好きなアルバムかも。
VAN MORRISON / WAVELENGTH 1978
前作A PERIOD OF TRANSITION「安息の旅」も良いですが
ウェイヴレンクス「魂の呼び声」をチョイス。
ヴァンの邦題は似たテイストばかり。
70年代後半は元気で明るい。A面1曲め「KINGDOM HALL」なんて
パァーンと吹っ切れてみんな楽しもうぜ!みたいな感じ。
ガースハドソンのアコーディオンが跳ねる「VENICE U.S.A.」もウキウキ。
カメラマン、ノーマンシーフのジャケット写真もいい!
VAN MORRISON / INTO THE MUSIC 1979
こじんまりした印象がありますがバラエティに富んだ選曲。
あきません。ハッピームードは前作から続いている感じ。
特にA面5曲め「ROLLING HILLS」いいです。
気難しい、神経質なヴァンモリソンはここにはいない。
ジャケット写真は前作に引き続きカメラマン、ノーマンシーフ。
VAN MORRISON / BEAUTIFUL VISION 1982
前作コモンワンはピンときませんでした。
ビューティフルヴィジョンは大きな特徴はないけどいい曲が多く、
フィット感もあっていいアルバムだと思います。
A面一曲め「CELTIC RAY」が一番好きですが
B面一曲め「CLEANING WINDOWS」もマークノップラー参加でいい味出ています。
ジャケットデザインはよくわからない。何これ?って感じ。
VAN MORRISON / INARTICULATE SPEECH OF THE HEART 1983
引退作?扱いされた日本題「時の流れに」。
本当の訳は「心の中のものは表現できない」だそうです。
バンドサウンドがもろに80年代していますが
ヴァンとのマッチングもそんなに悪くはない。
4曲のインストもそれなりに楽しめます。
チーフタンズと再演されることになる「IRISH HEARTBEAT」もかなりいい。
ジャケットはヴァン史上最悪。2作連続のよくわからない路線。
ジャケ買いする人ゼロでしょ。
VAN MORRISON / POETIC CHAMPIONS COMPOSE 1987
80年代中盤の2枚「A SENSE OF WONDER」「NO GURU NO METHOD NO TEACHER」は
ハマらなかった。今聞くとデジタル化されていった時代だからなのか、
バンドサウンドも貧弱に感じます。
ポエティックチャンピオンズコンポーズは変わったアルバムです。
暗くジャジーなヴァンのサックスでスタート。
その後もしっとりした世界が続き、ラスト前の「DID YE GET HEALED?」で
ややふんわりするがラストはまたインストヴァンサックス。
静寂のアルバム。味はあります。ハマる人は深くハマりそう。
VAN MORRISON / AVALON SUNSET 1989
80年代最後のアヴァロンサンセット。前作アイリッシュハートビートで
吹っ切れたのか、元気になった印象。
ここから円熟期がスタートしたような気がします。
オープニング、クリフリチャードとのデュエット
「WHENEVER GOD SHINES HIS LIGHT」からノリがいい。
A面4曲め「HAVE I TOLD YOU LATELY」から
ストリングスが美しい「CONEY ISLAND」「I’M TIRED JOEY BOY」のつながりは
絶品。
VAN MORRISON / ENLIGHTENMENT 1990
前作から参加したジョージーフェイムの良い影響で、
前作の勢いそのまま90年代幕開けを飾るエンライトンメント。
元気ハツラツの「REAL REAL GONE」でスタート。
後半の「START ALL OVER AGAIN」も気持ちいい。
VAN MORRISON / HYMNS TO THE SILENCE 1991
心赴くままにやったら曲数がこんなに増えてしまった。という感じだろうか。
全21曲。日本タイトルは「オーディナリーライフ」
円熟期のピーク?かも。盛り沢山2枚組!大サービスな内容。
いろんなタイプの曲が入っています。
アヴァロンサンセット、エンライトンメントから続く
ジョージーフェイムとのタッグ効果が大きい。
しかし曲が多すぎてアルバム単体でいうと全2作の方が好きかも。
VAN MORRISON / TOO LONG IN EXILE 1993
ジョージーフェイムとの付き合いの中で
R&B色が徐々に強くなりここではジョンリーフッカーとも共演。
ブラックルーツ方向は好きですが
アイリッシュビューティ不思議テイストがなくなるのも
やや寂しい気がしました。
VAN MORRISON / A NIGHT IN SAN FRANCISCO 1994
この時期のハッピー感をそのままパッケージしたようなライヴ盤。
バックバンドも素晴らしい!理屈なしで楽しいです。
「MOONDANCE」しびれます。
VAN MORRISON / DAYS LIKE THIS 1995
娘、シャナとの共演。それゆえに全体にアットホームな気分。
突出した曲はないけど気持ちよく聞けます。
VAN MORRISON & GEORGIE FAME / HOW LONG HAS BEEN GOING ON 1995
ジャズ風アルバム。ロニースコッツでの無観客ライヴ録音。
これはこれで好きです。
VAN MORRISON / THE HEALING GAME 1997
久しぶりのオリジナル曲アルバム。
アコギ弾き語りにバグパイプがのる「PIPER AT THE GATES OF DAWN」や
コーラスとの掛け合い「IT ONCE WAS MY LIFE」など面白い。
ラストタイトル曲はじっくり聞かせるヴァン節で泣かせる。
まだまだ俺はやれるぜと思わせる一曲。
ジャケットもめちゃ渋い!!いい写真。
VAN MORRISON / BACK ON TOP 1999
バンドメンバーが一新。ギターにパイレーツのミックグリーン参加!
一曲めR&Bなロックンロールの「GOIN DOWN GENEVA」で幕開け。
これだけでも満足。タイトル曲「BACK ON TOP」のぶっきらぼうなハープが
ズシンときます。
前作に比べジャケットは物足りないが後姿もいいと思います。
90年代を締めくくる力作。
VAN MORRISON & LINDA GAIL LEWIS / YOU WIN AGAIN 2000
前作のスキッフルアルバムに続き今回はロックンロール。
ルーツ回帰時代の快作。
「SHOT OF RHYTHM & BLUES」「BOOGIE CHILLEN」
特に「CADILLAC」最高!
ながーくなりましたが今回は2000年までとします。
最初に言いましたがヴァンモリソン は現役です。
2000年以降もアルバムを多数発表しています。
2002年の「DOWN THE ROAD」から
最新作2019年の「THREE CHORDS & THE TRUTH」まで
12枚もあります。
この際引退するまで付き合って最後まで見届けようと思っています。
最後に私が好きなヴァンモリソン 写真集。
スティーブターナー箸
「VAN MORRISON / TOO LATE TO STOP NOW」
見たことない写真満載!
WHEN I WAS YOUNG MAN
アイリッシュハートビートを聞いていた頃。
制作進行アシスタント時代。